空室四号

ゲームコラム中心雑記ブログ

セーラームーンのベルトスクロールアクションゲームを妹から取り上げてまでプレイしていたやつら

男の子はみんな亜美ちゃん派だった。でも心には煮え切らない仮面をつけていた。タキシードは着ないまでも。

「みんな、セーラームーンの中で誰が一番好き?」

小学生のころ、J君の家で遊んでいると、J君のお母さんが不意に僕らに尋ねてきた。

僕は一瞬どぎまぎして「……セーラームーン」と小声で答えた。目一杯に照れていた。続いてS君も小声で「セーラームーン」。

そんな僕らの受け答えを聞いたあと、J君は大声ではっきりと「俺は亜美ちゃん!」と言った。

……実は僕も亜美ちゃん派だった。でも恥ずかしかったから言えなかった。男なのに『セーラームーン』に詳しいと思われるのがすごく嫌だったのだ。

「『セーラームーン』という作品であるからにはセーラームーンってやつはいるんじゃないの? 俺は詳しくないから知らないけど」

そんな気持ちから出た精一杯の虚勢だった。S君も恐らくそうだったのだと思う。でも僕らはそのときタイミング悪く『セーラームーン』のゲームをやっていた。

J君が従妹から取り上げたという『セーラームーン』のベルトスクロールアクションゲームだ。

画面の中ではJ君の使うマーキュリーが敵を延々とパンチでハメていた。S君の使うジュピターはあまりハメるまでもなく敵をなぎ倒していた。明らかにジュピターは強キャラだった。でも僕らがまこちゃんの女の子らしい魅力に気づくのはもう少し大人になってからだ。

 

ファイナルファイトの亡霊は美少女戦士までをも肉弾戦士に変えた

ファイナルファイト』というゲームがある。ゲーマーなら知らない人はまずいないであろう、ベルトスクロールアクションブームを象徴するアーケードゲームだ。

個性豊かな主人公たちは襲いかかる敵をパンチやキック、投げや必殺技を駆使して撃退し、(主に)左から右へとステージをひたすら進んでいく。

マルチプレイによる協力もアツい。僕らが遊んだのは専らスーパーファミコンの家庭用で、3人以上で遊ぶときは「死んだら交代」。自キャラの攻撃で味方を巻き込んではよく喧嘩になった。

時代はアーケードゲーム全盛。『ファイナルファイト』が当たってからはベルトスクロールアクションがとにかく量産されていた。

そして何をトチ狂ったのか小さな女の子が対象のハズの『セーラームーン』さえもベルトスクロールアクションにしてしまったのである。女の子たちもまさかセーラームーンでバッチバチの肉弾戦ゲームをやらされるとは思わなかったはずだ。

 

女の子のごっこ遊びを見ていると、マーズが取り合いになったり、ジュピターが余ったり、やっぱりムーンが人気だったり、ジュピターが余ったり、ジュピターが余ったりしていた

多分、このゲームは純粋にベルトスクロールアクションゲームとしてもけっこう良くできていたのだと思う。

気づいたら今までなんだかんだ取り上げても最後には気前よくソフトを貸してくれていたJ君の従妹もこの肉弾戦ゲームに熱中してしまったようで、なかなか貸してくれなくなってしまった。

僕らは飢えていた。ベルトスクロールアクションなら他にいくらでもあった。友人がすぐに用意できるソフトだけで『タートルズ』、『ダブルドラゴン』、そして『ファイナルファイト』……でももう『セーラームーン』じゃなくてはダメだった。

「萌え」とかでもない。照れくささの中で興じる秘密の遊びとかでもない。ゲームとしての、肉弾戦士としての『セーラームーン』がひたすらに恋しかった。

……そんなとき、高学年のやつがついに妹からソフトを取り上げることに成功したとの情報が入ってきた。まことにもって恐ろしい話である。

僕らはさっそく高学年に顔が聞くやつを中心に5人ほどで家に押し掛け、念願の『セーラームーン』に興じたのである。

そこからはガチだった。ガチすぎて、家にひとつもベルトスクロールアクションがなかった僕はすぐに下手くそ認定されてしまいプレイにまぜてもらえなくなった。それでも僕は熱心に友人たちが操る肉弾戦士たちを見守った。

明らかにパワーがあるジュピターとリーチが長いヴィーナスが頭ひとつ抜けていた。もう亜美ちゃんが好きどころではなかった。クリアのためのキャラはこの二人で確定だ。それでも結局僕らは夕方になってもクリアすることができなかったわけだけど。

……ブラウン管を見ることに疲れた僕は、夕焼けに暮れていく窓の外でソフトを取られた妹とその友達がセーラームーンごっこをやっているところをボーッと見つめていた。

マーズとムーンがすぐに取り合いになり、ややあって彼女たちはマーキュリーやヴィーナスに妥協した。ジュピターは誰もやりたがらなかった。

僕はゲームとは逆なんだな、と思った。

それからは夢から覚めたように『セーラームーン』のゲームはやらなくなってしまった。多分他に熱中するゲームができたのだと思う。

それでも僕は、『セーラームーン』というとこの出来事を真っ先に思い出す。

延々とパンチハメを繰り出す肉弾美少女戦士たちを。幼少のころの、よくわからない思い出だ。